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研究ハイライト

メダカの色覚が季節によってダイナミックに変化することを発見

 基礎生物学研究所 季節生物学研究部門の新村毅特任助教(現東京農工大学 准教授)、中山友哉特別共同利用研究員(名古屋大学 大学院生)、四宮愛特任助教、吉村崇客員教授(名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授)らのグループは、基礎生物学研究所の成瀬清特任教授、渡辺英治准教授、亀井保博特任准教授、名古屋大学の田中実教授、日本女子大学の深町昌司准教授らのグループとともに、メダカの色覚に季節変化が存在することを明らかにしました。動物たちは環境の変化によって、光感受性や色覚をダイナミックに変化させることで毎年繰り返される季節変化に、より良く適応していることが考えられます。ヒトにおいても色覚に季節変化があることが報告されており、メダカで明らかになった季節による色覚の変化は幅広い動物種に共通する仕組みである可能性が考えられます。本成果は科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました。 

Medaka_Fig1.png夏のメダカと冬のメダカ

 

研究の内容:

【本研究の背景】

 四季の存在する地域では季節によって環境が大きく変動します。多くの動物たちは確実に子孫を残すために、次世代の生育に適した春に産卵・分娩ラッシュを迎えます。吉村崇教授率いる研究グループは、これまで、洗練された季節適応能力を持つウズラをモデルとして、動物が春を感じて繁殖を開始する仕組みを解明してきました。またウズラで明らかにした仕組みが哺乳類や魚類においても広く保存されていることをマウスやヤマメを用いて明らかにしてきました。繁殖活動以外の動物の行動も季節によって大きく変化します。メダカは春から夏は活発に泳ぎ回って、ほぼ毎日配偶行動をしますが、冬は川底でじっと息をひそめて厳しい環境をやり過ごしています。しかしこれらの行動の違いをもたらす仕組みはわかっていませんでした。

 【成果の内容】

 研究グループは、まず、短日・低温(10時間明期、14時間暗期、8 °C)の冬の条件下で飼育したメダカと、長日・温暖(14時間明期、10時間暗期、26 °C)の夏の条件下で飼育したメダカの行動の違いを調べたところ、夏のメダカは水槽全体を活発に動き回ったのに対して、冬のメダカは水槽の底でじっとしていました(図1)。次に水槽の側面から光を当てたところ、夏のメダカは光を避ける「負の走光性」を示したのに対して、冬のメダカは反応しなかったことから、冬のメダカでは光に対する感受性が低下していることがわかりました(図2)。

Medaka_Fig1-2.png図1:冬と夏のメダカ(それぞれ二個体)の遊泳軌跡

Medaka_Fig2.png

図2:夏のメダカと冬のメダカの光に対する反応の違い。

夏のメダカは光刺激に対して負の走光性を示すが、冬のメダカは示さない。

 メダカは繁殖期の春から夏にかけて鰭に黒点が現れ、体の橙色、赤色が濃くなる婚姻色を示します。季節によって光に対する応答性が異なるなら、婚姻色の見え方も季節によって異なる可能性が考えられました。そこでコンピュータグラフィックスで作製したリアルなヴァーチャルメダカをディスプレイに映し出して、婚姻色に対するメダカの嗜好性を検討しました(図3)。この実験では、メダカが分泌する化学信号(フェロモンなど)が嗜好性に関与している可能性や、個体ごとに異なる行動パターンが嗜好性に影響している可能性を排除することができ、純粋にメダカの体色に対する嗜好性を評価できます。グレー(白黒)のヴァーチャルメダカに対する反応を調べると、冬のメダカも夏のメダカも、ヴァーチャルメダカへの誘因反応は共に少ないことがわかりました。次に婚姻色のヴァーチャルメダカに対する反応を評価しました。夏のメダカが婚姻色のヴァーチャルメダカに強く誘引されたのに対して、冬のメダカは誘引されませんでした。以上の結果から、メダカは冬と夏では光感受性や色覚が異なり、季節によって世界の見え方が異なっている可能性が考えられました。

Medaka_Fig3.png図3:ヴァーチャルメダカを用いた体色に対する嗜好性の評価

形、移動軌跡、体軸運動など、あらゆる視覚特徴を実物そっくりに再現したヴァーチャルメダカをモニターに映して、配偶者嗜好性試験を行った。ヴァーチャルメダカの体色を変えて実験を行ったところ、夏のメダカは婚姻色のメダカに誘引されたのに対して、冬のメダカは誘引されなかった。

  目の網膜には視覚をつかさどる視細胞があり(図4上)、桿体細胞が薄暗いところで薄明視に関わっており、錐体細胞が明るいところで、色覚を担っています。ヒトには赤1つ、緑1つ、青1つの三つの色を感じる錐体視物質(オプシン)があります。実はメダカには紫1つ、青2つ、緑3つ、赤2つの合計8つもオプシンがあります(図4下)。

Medaka_Fig4-1.pngMedaka_Fig4-2.png図4:メダカの目の構造とオプシン

(上) 目の網膜には薄明視をつかさどる桿体細胞と色覚をつかさどる錐体細胞がある。(下) ヒトとメダカの錐体視物質(オプシン)の吸収スペクトル。

 研究グループは冬の環境で飼育したメダカと、冬の環境から夏の条件に移した際のメダカの目における遺伝子発現の変化を網羅的に検討しました。すると、視覚をつかさどるオプシンやその下流の情報伝達経路の遺伝子の発現が冬には著しく低下していたのに対して、夏には一斉に上昇することが明らかになりました(図5および図6)。婚姻色の橙色や赤色を主に感じるのは赤オプシンです。夏に様々なオプシンの発現が上昇することの生理学的な意義を検討するために、赤オプシンを欠損するメダカを用いて解析を実施しました。その結果、赤オプシン欠損メダカでは、負の走光性(図7A)と、婚姻色の配偶者に対する嗜好性(図7B)が、野生型のメダカに比べて低下していることが明らかになりました。これらの結果から、夏のメダカの行動が現れるためには、夏に水温が上昇することによってオプシンが発現誘導されることが重要であることが明らかになりました。

Medaka_Fig5.png図5:冬の条件から夏の条件に移した際のオプシンに関連する遺伝子発現の変動

マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析の結果、冬の条件から夏の条件に移すとメダカのオプシンの発現が劇的に上昇することが明らかになった。青色と黄色はそれぞれ遺伝子の発現が低い状態と高い状態を示す。

 Medaka_Fig6.png

図6:冬と夏のメダカの網膜の赤オプシンの量の変化(矢頭)

Medaka_Fig7.png図7:赤オプシン欠損メダカでは夏の光応答性と配偶者嗜好性が低下する

 (A) 赤オプシン欠損メダカ(LWS-/-)は夏の条件下で、野生型(LWS+/+)に比べて光に対する負の走光性が低下していた。(B)赤オプシン欠損メダカは夏の条件下で、野生型に比べて婚姻色の配偶者に対する嗜好性が低下していた。

 【成果の意義】

 熱帯以外の地域では、冬は夏に比べ日照時間が短く、太陽から降り注ぐ光の強さも小さくなります。メダカは冬になると活動量が低下し、川底でじっと息をひそめています。メダカは冬の間、食料をほとんど摂取しないので、オプシンを含む様々な遺伝子の発現を抑えることで、タンパク質生産のコストを削減していると考えられます。

 一方、春から夏にかけては日照時間が長くなり、太陽からの光の強さも大きくなります。動物たちは異性を惹きつけるためにクジャクの羽のような装飾を身に付けたり、婚姻色を発達させたりしています。メダカは繁殖期に光感受性や色覚を顕著に発達させることで、繁殖の成功率をあげていることが予想されます。今回の研究から、メダカは季節の変化に応じて、光感受性や色覚がダイナミックに変化していることが明らかになりました。近年、トゲウオやスズメダイなどの他の魚類においても、オプシンの発現が水深や水の濁り具合などの環境の変化によって変動することが報告されています。また、ヒトの色覚が季節によって変化することも報告されています(Jordan & Mollon, Nature 1993; Welbourne et al., Curr. Biol. 2015)。今回発見された色覚の季節変化という現象はメダカにとどまらず、様々な動物に広く保存された現象であることが推測されます。

論文情報:

"Dynamic plasticity in phototransduction regulates seasonal changes in color perception" by Tsuyoshi Shimmura, Tomoya Nakayama, Ai Shinomiya, Shoji Fukamachi, Masaki Yasugi, Eiji Watanabe, Takayuki Shimo, Takumi Senga, Toshiya Nishimura, Minoru Tanaka, Yasuhiro Kamei, Kiyoshi Naruse & Takashi Yoshimura is published online in Nature Communications.

DOI: 10.1038/s41467-017-00432-8

リンク:

http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/research/20170905_NatComm_Yoshimura_JP_PressRelease.png

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吉村崇教授

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2017-09-05

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