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研究ハイライト

医農薬品の開発に朗報! ~ 有機フッ素化合物の新しいビルドアップ構築法 ~

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)のCathleen Crudden 客員教授、南保正和特任講師らは、医農薬品の開発に極めて重要である有機フッ素化合物群に対する新しい合成法の開発に成功しました。

本合成法の特徴は、硫黄を含む有機化合物を鋳型として、フッ素原子の導入反応とパラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応を逐次的に行うことで、あたかもレゴブロックを組み上げるような分子のビルドアップ構築を実現した点にあります。1つの炭素上にフッ素とベンゼン環で置換された化合物群を効率良く得ることができ、本手法を駆使することで特定の位置にフッ素が導入された生物活性化合物を選択的に合成できることを実証しました。

また、本合成法は入手や調製が容易な試薬を用いて実施することが可能であり、従来にない新しい医農薬品や有機材料の開発に貢献すると期待されます。

本研究成果は、2019年10月4日付け英国の科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

この研究成果は、日本学術振興会科学研究費助成事業(17K17805)の支援のもとで行われたものです。

【ポイント】

  • 医農薬品開発に極めて重要である有機フッ素化合物対する新しい合成法の発見
  • 硫黄を含む有機化合物を鋳型とした分子のビルドアップ構築を実現
  • 特定の位置にフッ素が導入された生物活性化合物の選択的合成に成功

<研究背景と内容>

フッ素は最も電気陰性度が大きい元素であり、有機分子に導入することで、その性質を劇的に変化させることができます。また、炭素とフッ素の結合は炭素と水素の結合に比べて強固であるため、代謝や酸化に対する安定性が向上することが知られています。したがって、炭素とフッ素が結合した有機フッ素化合物は非常に多くの医農薬品や有機材料に含まれており、その重要性はますます高まっています。これまでに様々な有機フッ素化合物の合成法が開発されてきましたが、毒性が高く、危険なフッ素化試薬を用いる場合が少なくありませんでした。近年になり、危険な試薬を必要としない触媒を活用した合成法によって、様々な有機フッ素化合物の合成が可能になりつつあります。しかしながら、依然として合成が困難な有機フッ素化合物が存在します。特に、1つの炭素上にフッ素と2つのベンゼン環で置換された化合物、すなわち、フッ素化されたジアリールメタン類注1)の合成法は限られていました。有効な合成法がないことから、この骨格を活用した創薬・材料開発研究は立ち遅れているため、自由度が高く、かつ、短工程で合成できる新規合成法の開発が望まれてきました。

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Crudden客員教授、南保特任講師らの研究グループは、これまでに有機硫黄化合物の1つであるスルホン注2)を鋳型に用いることで、アリールメタン類の自在合成法を開発しています。その成功の鍵は、スルホンがもつ強い電子求引性と反応性、そして、パラジウム触媒を用いた多彩な結合形成反応を活用した点です。これにより、酸性度の高い水素原子をベンゼン環に置換し、その後、スルホン部位の切断を伴うクロスカップリング反応による連続的なベンゼン環導入が可能となります。これは、多様なアリールメタン類を最短工程で得ることに成功した世界初の例です。

次に、研究グループは、本合成戦略を有機フッ素化合物合成へと展開することにしました。すなわち、これまでのベンゼン環の代わりにフッ素をスルホン化合物に導入し、その後、スルホン部位の切断を伴うクロスカップリング反応を開発できれば、最短工程でフッ素化されたジアリールメタン類の自在合成が可能になると考えました。

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今回、研究グループは、スルホンを鋳型に用いることで有機フッ素化合物群に対する新しい合成法の開発に成功しました。すなわち、スルホンの炭素上の1つ、あるいは、2つの水素原子をフッ素原子に変換し、その後、パラジウム触媒を用いた有機ホウ素化合物とのクロスカップリング反応を行うことで、フッ素化されたジアリールメタン類を構築できることを見出しました。また、この分子は基質の多彩な組み合わせが可能であり、従来法では合成が困難な分子群を効率的に合成できることがわかりました。本反応ではトリフルオロメチル(CF3)基を有するスルホン(トリフロン)を用いることが非常に重要です。この興味深い現象に関しては、コントロール実験および計算化学によってその妥当性が検証されています。

本合成により、様々なフッ素化された生物活性をもつ化合物の合成が可能です。例えば、植物から産出されるフラボンの誘導体にスルホン部位を導入し、それを起点としてフッ素化合物へと変換することができました。2つのフッ素原子が結合した炭素(CF2)ユニットはエーテル基やカルボニル基の生物学的等価体注3)とされており、創薬研究において注目されています。本合成法を駆使することで、抗腫瘍作用を示すABT-518のエーテル基をCF2基に置き換えた誘導体の合成にも成功しました。

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<成果の意義>

フッ素原子の導入反応とパラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応を連続的に行うことで、あたかもレゴブロックを組み上げるような分子のビルドアップ構築を実現することに成功しました。本来、反応性の乏しいスルホン化合物を有用な鋳型に活用できることを示したのが本研究であり、有機合成化学における新たな合成戦略を提示するものです。また、本合成法は入手や調製が容易な試薬を用いて実施することができるため、従来にない新しい医農薬品や有機材料の開発に貢献すると期待されます。

この研究成果は、日本学術振興会科学研究費助成事業(17K17805)の支援のもとで行われたものです。

<用語説明>

1)ジアリールメタン類:1つの炭素上に2つのベンゼン環を有するメタン類。アリールメタン類は1つの炭素上に複数のベンゼン環を有するメタン類の総称。様々な機能性分子や生物活性化合物、天然物にも含まれる骨格。

2)スルホン:有機硫黄化合物の1つであり、硫黄上が2つの炭素と2つの酸素が結合している分子の総称。

3)生物学的等価体:生物学的に類似の機能を示す化学構造。近年の医薬品開発に重要な概念。

<論文情報>

雑誌名:Nature Communications

論文タイトル:Modular Synthesis of alpha-Fluorinated Arylmethanes via Desulfonylative Cross-Coupling

著者:南保 正和(本学特任講師)、Jacky C.-H. Yim(本学博士研究員)、Luiza B. O. Freitas(クイーンズ大学博士研究員)、田原 康予(本学技術補佐員)、Zachary T. Ariki(クイーンズ大学大学院生)、前川 侑輝(クイーンズ大学博士研究員)、横川 大輔(東京大学准教授)、Cathleen M. Crudden(本学客員教授、クイーンズ大学教授)

DOI:10.1038/s41467-019-11758-w

リンク:

http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/research/20191016_nanbo.jpg

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左から:Cathleen Crudden 客員教授南保 正和 特任講師

2019-10-16

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