ホーム > 研究ハイライト > 植物のユニークな細胞分裂の仕組みを解明 ~農作物増産に期待~

研究ハイライト

植物のユニークな細胞分裂の仕組みを解明 ~農作物増産に期待~

■ 概要

細胞分裂はあらゆる生物の成長の根幹となる生命現象です。植物の細胞分裂は根や茎の先端で繰り返され、植物の成長は細胞分裂の効率に大きく依存します。植物細胞は細胞板で細胞質を仕切ることにより分裂します。この仕組みは細胞がくびれることにより分裂する動物細胞と異なっています。植物細胞が細胞板を形成して細胞分裂をする仕組みには未解明の部分が数多く残されています。 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の小田祥久教授らの研究グループは、植物細胞が細胞板を効率よく作り出す仕組みを世界で初めて明らかにしました。本研究グループは、細胞板を作り出す装置に含まれるタンパク質「CORD4」を見出し、CORD4が細胞板の成分を運ぶレールである微小管(1)を効率よく配置することにより、細胞板をより短時間で作り出していることを突き止めました。 本研究により、植物のユニークな細胞分裂の仕組みの一端が明らかになりました。この成果は植物の細胞分裂の仕組みとその仕組みの進化の過程の解明に繋がる貴重な手がかりです。この仕組みを利用することで、農作物の生育を早める新しい技術に繋がる可能性も期待されます。 本研究は、北海道大学電子科学研究所ニコンイメージングセンター、自然科学研究機構基礎生物学研究所、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)との共同研究として行われました。

20191111_nakamura.png

図1:植物細胞の分裂の様子

A, 植物細胞は細胞板により細胞質を仕切ることで分裂する。 B, 細胞板はフラグモプラスト(2)と呼ばれる装置により作られる。フラグモプラストでは短い微小管が細胞壁の成分を含む小胞を輸送する足場としてはたらいている。CORD4は、フラグモプラストの微小管を細胞板に垂直に並べる。輸送された小胞が細胞板と融合することにより細胞板が拡大していく。

■ 成果掲載誌

本研究成果は、米国科学雑誌「Current Biology」に2019年11月14日午前1時(米国東部時間)に掲載されました。

論文タイトル: A novel katanin-tethering machinery accelerates cytokinesis (細胞質分裂を促進する新規カタニン係留機構の発見)

著者: Takema Sasaki, Motosuke Tsutsumi, Kohei Otomo, Takashi Murata, Noriyoshi Yagi, Masayoshi Nakamura, Tomomi Nemoto, Mitsuyasu Hasebe, Yoshihisa Oda (佐々木武馬、堤元佐、大友康平、村田隆、八木慎宜、中村匡良、根本知己、長谷部光泰、小田祥久)

DOI:S0960-9822(19)31240-0

■ 研究の詳細

<研究の背景>

細胞分裂はあらゆる生物の成長や繁殖の要となる現象です。植物は根や茎の先端などで細胞分裂を繰り返すことにより成長し、植物の生長は細胞分裂の効率に大きく依存しています。植物は動物とは異なる独自の細胞分裂の様式を進化させてきました。動物の細胞は外側から徐々にくびれて、細胞質をちぎり切ることにより分裂します。一方、植物の細胞は細胞の内部に細胞板とよばれる円盤状の細胞壁を作り、その円盤状の細胞壁が徐々に拡大して細胞質を仕切ることにより分裂します (図1A)。このような細胞板の拡大はフラグモプラストと呼ばれる装置によって誘導されます。フラグモプラストは、微小管と呼ばれる数マイクロメートル程度の長さの繊維が細胞板を形成する面に向かって垂直に並んだ装置です。フラグモプラストの微小管は細胞板の成分を含む小胞を細胞板の辺縁部に輸送し、これらの小胞が細胞板と融合することにより細胞板が拡大します(図1B)。しかしながら、フラグモプラストの微小管の長さを制御する仕組みや、微小管を細胞板に対して垂直に並べる仕組みは全くわかっていませんでした。

<本研究の成果>

本研究グループは、フラグモプラストに含まれる新たなタンパク質を同定し、細胞板の拡大を素早く進める仕組みを世界に先駆けて明らかにしました。同研究グループは、植物のみが保有するタンパク質の中から微小管に結合する性質を持つタンパク質群を選び出し、同研究グループが2017年に発見したタンパク質であるCORDのひとつ、「CORD4」がフラグモプラストの微小管の長さと方向を制御していることを突き止めました。さらに、同研究グループは、多光子励起レーザー(3)とスピニングディスク顕微鏡(4)を組み合わせた、世界に1台しかない特殊な顕微鏡を用いてCORD4の機能を詳細に調べました。その結果、CORD4はフラグモプラストの微小管の端に集積し、微小管を切断する活性をもつタンパク質「カタニン」を利用して、フラグモプラストの微小管の長さや角度を調節していることが明らかとなりました(図2)。

20191111_Nakamura2.png

図2:多光子励起スピニングディスク顕微鏡を用いて撮影されたフラグモプラストの拡大とCORD4タンパク質の様子

フラグモプラストが細胞板を形成しながら拡大してゆく過程の代表的な4場面をⅠからⅣに示した。紫色はフラグモプラストの微小管、緑色はCORD4タンパク質を示す。フラグモプラストは円盤状の構造として形成され(I)、細胞板を形成しながらドーナツ状に拡大してゆく (II~III)。細胞を囲む細胞膜に到達したところからフラグモプラストは消失する (IV)。CORD4タンパク質はフラグモプラストが拡大する間、フラグモプラストの端に集積し続ける。

一方、CORD4を欠損した植物ではフラグモプラストの微小管が異常に長く斜めに傾き、フラグモプラストが拡大する速度が遅くなりました。この植物の成長は正常な植物よりも遅くなっていました。CORD4が微小管を短くそろえて並べて細胞板を素早く作り出すことで、細胞分裂を効率よく進め、植物の生長を早めていたのです(図3)。

20191111_Nakamura3.png

図3:正常な植物とCORD4を欠損した植物におけるフラグモプラストの様子

正常な植物ではフラグモプラスト微小管の端にCORD4タンパク質が集積する。CORD4タンパク質はカタニンをフラグモプラストに係留し、フラグモプラスト微小管の長さと角度を制御する。CORD4遺伝子を欠損した植物ではカタニンをフラグモプラストに係留できなくなる。その結果フラグモプラストの微小管が正常な植物に比べて長くなり斜めに傾いてしまう。

<今後の期待>

本研究により植物のユニークな細胞分裂の仕組みの一端が明らかになりました。カタニンは動物にも植物にも存在するタンパク質ですが、CORD4は植物のみが持つタンパク質です。植物は進化の過程でCORD4を獲得したことにより、カタニンを利用して細胞分裂を早める独特の仕組みを発達させたと考えられます。CORD4のはたらきをさらに詳しく調べることにより、植物の細胞分裂の仕組みとその進化の過程が解明されると期待されます。また、CORD4のはたらきを人為的に改変することにより、農作物の生育を早める技術の実現にも繋がると期待されます。

■ 用語解説

(1) 微小管

真核生物に広く保存されている細胞骨格の一種。α-チューブリンとβ-チューブンリンから成る二量体が重合することにより作られる直径24 nmの管状の繊維。

(2) フラグモプラスト

陸上植物の細胞分裂において細胞板を作り出す構造。フラグモプラストは多数の短い微小管が、細胞板が形成される面に対して垂直に並び、細胞板の成分を含む小胞を細胞板に向かって輸送するための足場としてはたらく。フラグモプラストの外縁部では新たな微小管が重合され、その中心部では微小管が脱重合される。これにより、フラグモプラストはドーナツ状に拡大していく。フラグモプラストの拡大に伴って細胞板が拡大して、細胞板が細胞膜と融合したところでフラグモプラストは消滅する。

(3)多光子励起レーザー

蛍光分子に2光子以上の励起光子を吸収させる多光子励起を引き起こすためのレーザー。多光子励起による観察は組織深部の観察性に優れ観察対象へのダメージも少ない利点がある。

(4) スピニングディスク顕微鏡

共焦点レーザー顕微鏡の一種。ニポウ板と呼ばれる多数のピンホールをもつディスクを通して撮像することにより鮮明な画像を高速で得ることができる。蛍光タンパク質等で標識したタンパク質や細胞骨格、細胞小器官を生きた細胞内で観察する。

■ 研究体制と支援

本研究は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の細胞制御研究室(佐々木武馬 日本学術振興会特別研究員PD、小田祥久 教授)、北海道大学電子科学研究所ニコンイメージングセンター(堤元佐 特任助教(当時)※1、大友康平 助教、根本知己 教授(当時)※2)、自然科学研究機構基礎生物学研究所生物進化研究部門(村田隆 准教授、長谷部光泰 教授)、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (WPI-ITbM) (八木慎宜 博士研究員、中村匡良 特任講師)との共同研究としておこなわれました。

また、本研究は、文部科学省の科学研究費補助金(JP19H05372, JP19H05677, JP19H05670)、日本学術振興会の科学研究費補助金(JP18H02469, JP18K14737, JP18KK0195, JP15H05953, JP16H06280, JP16H06378)、物質・デバイス領域共同研究拠点:人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンスにおける共同研究「COREラボ」(20186001,20166001)、国立遺伝学研究所 NIG-JOINT(89A2019)、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムの助成を受けました。なお、所属は論文受理時のものです。

※12019年10月より自然科学研究機構生命創成探究センター特任助教

※22019年10月より自然科学研究機構生命創成探究センター教授、北海道大学電子科学研究所ニコンイメージングセンター客員教授

リンク:

http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/research/20191111_Nakamura.png

m-nakamura.png

中村匡良 特任講師

関連記事・報道:

2019-11-15

研究ハイライトのトップへ戻る