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研究ハイライト

2つの相反するペプチドホルモンの競合による気孔の数と分布の制御 〜 植物ペプチドホルモンの新しい作用機構の発見 〜

米国ハワードヒューズ医学研究所(HHMI)、ワシントン大学、および名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の鳥居 啓子主任研究者らの研究チームは、発生遺伝学とペプチド生化学の手法を用いて、植物の気孔の数と分布の制御には、2つの相反するペプチドが競合的に受容体を奪い合うことにより調節されていることを明らかにしました。 この成果は、植物ペプチドホルモンの新奇な作用メカニズムを実証するものです。 将来的にITbMの合成化学技術と融合させることにより、植物の生長や乾燥耐性を自在に調節することが可能になると期待されます。 本研究成果は、英国科学誌「ネイチャー」のアーティクルとして公開されました。

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概要:

植物の表皮に無数に点在する通気口、気孔は直径数十ミクロンの構造に過ぎませんが、植物の生長と生存に必要不可欠です。 大気中の二酸化炭素は気孔を介して陸上植物の体内で光合成によりバイオマスとなり、また、大気中の全水蒸気は全植物の気孔を介して年に2回も循環されると算出されているなど、気孔の存在は、地球の大気環境に大きなインパクトを与えています。

シロイヌナズナなど双子葉植物では、気孔の形成には、一連の分泌性ペプチドホルモンが重要な役割を持つ事が知られています。 中でも、EPIDERMAL PATTERNING FACTOR2(EPF2)は、受容体キナーゼERECTAおよびパートナー受容体であるTOO MANY MOUTHS (TMM)に結合することにより、未分化な原表皮細胞が気孔系譜にならないように抑制しています。 そのため、活性EPF2ペプチドを植物芽生えに投与すると、表皮からは気孔がなくなります(気孔のない植物は致死となります)。 一方で、EPF2と似たペプチドであるストマジェン (Stomagen, EPF-LIKE9とも呼ばれる)は、気孔をつくるペプチドホルモンで、植物芽生えにストマジェンを過剰に投与すると気孔が過剰にでき、また、気孔同士が塊をつくることが知られていました。 しかしながら、ストマジェンがどのようにして気孔の分化を促進するのか、その作用メカニズムについては解っていませんでした。

今回の発見は、植物が、生体内で同一の受容体のアゴニストとアンタゴニストとして働くペプチドを生産し、発生・分化を制御している事を明確に示した最初の例であり、ペプチドホルモンの作用機作の新しいメカニズムを提唱したものです。 今後、ペプチドホルモンと受容体の構造解析などを介して、受容体を自在にON・OFFできる薬剤の開発等につながることにより、植物の生長と生存を自在に制御することが可能になると期待されます。

論文情報:

"Competitive binding of antagonistic peptides fine-tunes stomatal patterning" by Jin Suk Lee, Marketa Hnilova, Michal Maes, Ya-Chen Lisa Lin, Aarthi Putarjunan, Soon-Ki Han, Julian Avila, Keiko Torii is published online on June 18, 2015 in Nature.

DOI: 10.1038/nature14561

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