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研究ハイライト

体内時計を遅くする低分子化合物 〜時計タンパク質CRYに働きかけて概日リズムを調節する化合物のデザイン〜

生物学者、理論化学者、および合成化学者によるITbMの研究グループが時計タンパク質CRYに働きかけて、体内時計を遅くする低分子化合物を開発しました。

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CRY時計タンパク質に結合する小分子(イメージ図)

研究の内容:

朝に目が覚めて、夜に眠る、そして毎日ほとんど同じ時間にお腹が空くといった具合に、私たちの生命活動の多くは時間によって司られています。私たちの体内にあり、24時間周期のリズムで動く時計を「概日時計」と呼びます。概日リズムは、様々な時計遺伝子とタンパク質の相互作用によって制御されています。

太陽の光や気温といった外部からの刺激が概日時計に影響を及ぼすことが知られています。また、生活スタイルによって概日時計が乱れることがあり、例えば、変則的な勤務時間や長時間の飛行機での移動などが睡眠や代謝の不調につながることがあります。私たちの概日時計がどのように機能するか、そしてどのように体内の生理現象に影響を与えているかを理解することで、睡眠障害や代謝に関連する病気への治療につながる可能性があるのです。

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)廣田毅特任准教授ならびにスティーブ・ケイ海外主任研究者(米国南カリフォルニア大学教授・スクリプス研究所長)は以前、概日時計に影響を及ぼすKL001という小分子を発見しました。KL001は、CRYという時計タンパク質に結合し、その分解を防ぐことで、概日リズムを遅くする分子です。

廣田特任准教授とケイ教授は、名古屋大学ITbMのアヌプリヤ・クマール博士およびステファン・イレ教授らと共に、CRYタンパク質に働きかけて、KL001よりもさらに概日リズムを遅くする分子をドイツ科学誌ChemMedChemに発表しました。

今回の研究では、概日時計を制御するKL001の有効な部分を解明するため、構造を部分的に改変した様々な誘導体を合成しました。さらに、各誘導体の生物活性を分析し、CRYタンパク質に結合したKL001の3次元構造を元に分子の構造活性相関を解析するモデルを構築しました。

コンピューターモデルを用いて誘導体を解析した結果、CRYタンパク質に働きかける分子構造のどの部分が活性に関わるかを解明することに成功しました。すなわち、分子のどの部分をどの方向に大きくしたり、小さくしたりする必要があるか分かりました。また、CRYタンパク質に対して活性の無い分子に関して、その要因を突き止めることができました。

モデルより得た結果から、KL001に対して10倍の活性を持つ誘導体KL044の作用機序を解明することに成功しました。計算化学で得た情報を元に、より多くの化合物をコンピューターによって解析し、最も活性があると思われる化合物を実際に合成し、その活性を分析することが可能になります。

今回の研究は、有機合成、生物活性試験およびコンピューターによるモデル実験を駆使したことにより、CRYタンパク質に対して、現在までに最も活性の高い化合物を見出すことに成功しました。コンピューターモデルを用いることで、より活性の高い分子を見つけ、概日リズムが関連する医薬品の開発につながることが期待されます。

論文情報:

"Development of Small-Molecule Cryptochrome Stabilizer Derivatives as Modulators of the Circadian Clock" by Jae Wook Lee, Tsuyoshi Hirota,* Anupriya Kumar,* Nam-Jung Kim, Stephan Irle, and Steve A. Kay* is published online in ChemMedChem.

DOI: 10.1002/cmdc.201500260

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