植物の花粉管に受精能を与える分子

被子植物の受精過程では、めしべの先端についた花粉が花粉管を伸ばし、めしべの中を通過しながら卵細胞のある胚珠に向かって進みます。その際、花粉管はめしべから道案内(誘引シグナル)を受けることで、この長い距離を迷うことなく伸長します。その伸長方向制御のしくみを、花粉管ガイダンス(花粉管誘導)と呼びます。

 動物では、メスの組織に由来する物質によってオスの精子が活性化する「受精能獲得」現象が古くから知られていますが、植物では、泳がない精細胞を代わりに運ぶための花粉管がどのように受精能を獲得するのか、その分子メカニズムは明らかになっていませんでした。

 ITbMの研究グループは、トレニアという植物を用いて、花粉管に受精能を与える分子「AMOR:アモール」をめしべの組織から発見しました。アモールは植物に特有なアラビノガラクタンと呼ばれる糖鎖をもっており、驚くことに糖鎖の末端にある2糖だけでも効果をもつことがわかりました。

化学合成に成功!植物の糖鎖研究に新たな展開をもたらすと期待

 この末端の2糖の構造を人工的に化学合成し、花粉の培地に入れて胚珠をおいたところ、花粉管は伸長方向を変化させて胚珠に向かっていきました。しかしながら、培地にこの化合物を入れない場合は、花粉管は胚珠に反応せず通り過ぎてしまったのです。

 この結果から、アモールが花粉管ガイダンスにおける胚珠への応答に必要不可欠であることが明らかになりました。アモールは名前の由来通り、まさに花粉管と胚珠の出会いを助ける「愛のキューピッド」のようです。

 アモールの発見は、植物の受精効率を高める研究に寄与するだけでなく、植物細胞間の情報伝達における糖鎖研究に新たな展開をもたらすと期待されます。

 

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