研究ハイライト
構造化学と触媒化学の融合により空前のアニオン性リン触媒が誕生
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)・大学院工学研究科の大井 貴史(おおい たかし)教授、浦口 大輔(うらぐち だいすけ)准教授、佐々木 仁嗣(ささき ひとし)(大学院生)、木村 悠人(きむら ゆうと)(大学院生)らの研究グループは、キラル*1な新奇アニオン*2性リン化合物を生み出し、これがカチオン*3性炭素の表と裏を区別して結合をつくる触媒として高い性能をもつことを明らかにしました。
今回開発したホスフェイトの分子構造と触媒作用
研究の内容:
一般的な有機化合物では、原子から正四面体の頂点の方向に結合が伸びた形を基本として、多彩な分子が組み上がっています。これに対し、中心原子から4本以上の結合が伸びた形をもつ分子を高配位化合物と呼びます。6個の原子に囲まれたリン原子をもつアニオン(ホスフェイト*4)はその代表格としてこれまで主に構造化学の分野で研究対象とされてきましたが、ホスフェイトに機能を求めた例はほとんど知られていませんでした。今回、触媒化学の研究者により新たな角度からホスフェイトが見直されたことで、触媒として高い性能をもった全く新しいホスフェイトが誕生しました。構造化学と触媒化学さらには元素化学の境界領域を刺激し、新たな化学を創発するきっかけを与える成果として注目されます。
本研究成果は、平成30年2月1日付のJournal of the American Chemical Society(アメリカ化学会誌)のオンライン版で公開されました。
本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 (CREST)「新機能創出を目指した分子技術の構築」(JPMJCR13L2)の支援を受けて行われました。
今回開発したホスフェイトイオンの合成戦略
【研究のポイント】
- 新奇なキラル6配位型ホスフェイトイオン*5を生み出した(構造化学)
- ホスフェイトイオンが不斉触媒として高い性能をもつことを実証した(触媒化学)
【用語解説】
*1キラル: 右手と左手、あるいは右らせんと左らせんのように、鏡に映った像(鏡像)同士が重ね合わさらない幾何学的性質(キラリティ・不斉)が存在すること(「キラル」は「手」を意味するギリシア語に由来する)。
*2アニオン: 負(マイナス)の電荷をもった分子のこと。
*3カチオン: 陽(プラス)の電荷をもった分子のこと。
*4ホスフェイト: リン酸アニオンのことを示すが、ここでは6個のヘテロ原子(炭素・水素以外の原子)と結合したリン原子を中心にもつアニオン性分子のこと。
*5イオン: 負(マイナス)または陽(プラス)の電荷をもった原子または原子団。
論文情報:
This article "Molecular Design, Synthesis, and Asymmetric Catalysis of a Hexacoordinated Chiral Phosphate Ion" by Daisuke Uraguchi, Hitoshi Sasaki, Yuto Kimura, Takaki Ito, Takashi Ooi is published online in the Journal of the American Chemical Society.
リンク:
関連記事・報道:
- 日本の研究.com「構造化学と触媒化学の融合により空前のアニオン性リン触媒が誕生」(2018.02.06)
2018-02-21