Molecular Control of Circadian Rhythm in Animals

Research

      概日時計は睡眠・覚醒、体温、ホルモン分泌、代謝など、多様な生理機能に見られる一日周期のリズムを支配する内在性の計時機構です。生理機能を時間的に協調させることは、一日のなかでの環境変化の予測を可能にするため、生存に有利に働くと考えられます。概日時計と生理機能の間の結びつきは非常に強いので、遺伝子の変異およびシフトワークや時差ボケなどの環境的な要因によって概日時計の機能が攪乱されると、睡眠障害や癌、循環器疾患、代謝疾患につながることが知られています。そのため、概日時計システムを理解することはヒトの健康増進に重大な意味を持ちます。

      概日リズムは時計遺伝子の転写制御ネットワークによって、個々の細胞レベルで生み出されます。これまでに10種類以上の時計遺伝子が発見されてきましたが、時計ネットワークがどのように正確なリズムを生み出すのか、どのように生理機能を調節するのかなど、重要な疑問が残されています。さらに、分子時計に関する知見をどのようにしたらヒトの健康増進に役立てることができるでしょうか。これは概日時計の研究分野における最重要課題のひとつです。これらの根本的な疑問に答えるため、私たちのグループは細胞を用いたハイスループットスクリーニングによって時計機能の調節因子を探索する新たな手法を確立しました。ヒト細胞を用いたゲノムワイドRNAiスクリーンから、ノックダウンによって時計の周期を大幅に変化させたり高振幅を導いたりする時計調節遺伝子を200種類以上同定しました。さらに、化合物を用いて生物機構を解析するケミカルバイオロジーの手法を応用しました。多様な構造を持つ何十万種類もの化合物をスクリーニングし、時計の周期を劇的に変化させる多数の低分子化合物を発見しました。アフィニティー精製と質量分析を用いて3種類の化合物の標的タンパク質を同定した結果、カゼインキナーゼIの新規の阻害剤および時計タンパク質CRYに作用する初めての化合物であることを明らかにしました。さらに、これらの化合物の機能解析から概日時計機構の重要な特徴を解明しました。私たちはまた、概日時計による代謝の調節に興味を持っています。肝臓の主要な機能のひとつは、グルカゴンなど空腹時に分泌されるホルモンに応答して糖を産生し、グルコース恒常性を維持することです。私たちのグループはこの過程が生体において概日リズムを示し、時計タンパク質CRYの制御をうけることを発見しました。

      概日時計の機能を調節するこれらの化合物および遺伝子の情報と、ITbMの最先端の技術を組み合わせることにより、Kay-廣田グループは概日時計の研究を変革させてひいてはヒトの健康増進に役立つような「トランスフォーマティブ生命分子」を発見することを目指します。分子生物学、遺伝学、ゲノミクス、生化学、そしてケミカルバイオロジーの統合により、概日時計の鍵となる制御機構を解明すると共に、時計と生理・行動リズムがどのようにつながっているのかを明らかにします。作用機序を解明した化合物は概日時計機能を自在に操作するための有用なツールとなるだけでなく、概日時計に関連した疾患の治療法開発の足がかりとなるに違いありません。

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