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研究ハイライト

ホルモンが一人二役を演じる仕組みを解明

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の吉村崇教授と池上啓介博士(現 近畿大学医学部助教)らの研究グループは、シカゴ大学医学部のSamuel Refetoff教授らと共同で、一人二役を演じるホルモンが血液中で情報の混線を防ぐ仕組みを解明しました。

概要:

甲状腺刺激ホルモンTSHは下垂体前葉(pars distalis: PD)から分泌されるホルモンとして古くから知られていますが、その名が示す通り、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの合成・分泌を促すホルモンです。本研究グループのこれまでの研究によって、TSHが脳に作用する場合には「春告げホルモン」という全く新しい働きがあることが明らかになりました。また、それまで働きがわかっていなかった下垂体隆起葉という組織が季節の情報を脳に伝える中枢として働いていることも明らかになりました。ホルモンは血液を通して全身を循環することで標的組織で作用をもたらしますが、下垂体隆起葉と前葉から分泌された二つの全く異なる働きを持つTSHが身体の中で情報の混線をおこさない(一人二役を演じる)仕組みは謎に包まれていました。

ゲノム情報は有限であるため、生物は一つのホルモンに二つの役割を授けました。しかし、身体の中で一つの分子が二つの全く異なる役割を演じるには情報の混線を防ぐ必要があります。本研究では組織特異的な糖鎖修飾と免疫グロブリンが、この仕組みに一役買っているという新しい概念を提供し、生物の巧みな生存戦略の一端を明らかにしました。

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          ネズミと和時計             PT-TSHが選択的にトラップされる(イメージ図)      

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       ヒトの視床下部と下垂体の構造       甲状腺刺激ホルモンTSHが一人二役を演じる仕組み

論文情報:

"Tissue-specific post-translational modification allows functional targeting of thyrotropin" by Keisuke Ikegami, Xiao-Hui Liao, Yuta Hoshino, Hiroko Ono, Wataru Ota, Yuka Ito, Taeko Nishiwaki-Ohkawa, Chihiro Sato, Ken Kitajima, Masayuki Iigo, Yasufumi Shigeyoshi, Masanobu Yamada, Yoshiharu Murata, Samuel Refetoff, Takashi Yoshimura is published online on October 30, 2014 in Cell Reports.

DOI:10.1016/j.celrep.2014.10.006

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