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研究ハイライト

SNAP-tagタンパク質を利用した植物生細胞イメージングの新手法

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の岩立竜博士、吉成晃博士、八木慎宜博士、Wolf Frommer客員教授、中村匡良特任講師らの研究チームは、東京大学の神谷真子准教授、小松徹特任助教、ITbMの山口茂弘教授らの研究グループと共同で、SNAP-tag注1)と合成蛍光プローブを利用した手法により、植物の生細胞における微小管動態と細胞膜タンパク質のエンドサイトーシス注2)の可視化に成功しました。

本知見は、植物細胞における、新たなタンパク質の蛍光標識技術を提供するものであり、植物細胞生物学研究を推し進める上で重要な発見であると言えます。今後、極めて高い光安定性をもつ合成色素を用いた超解像イメージングへの応用、特定の時間や特定の場所でのpHCa2+を測定する技術への応用が期待されます。

本研究成果は、2020年8月5日付「The Plant Cell」(米国の植物科学専門誌)のオンライン版に公開されました。

【研究の背景】

近年、合成色素で特定のタンパク質を標識する技術が生体試料の蛍光イメージング分野で注目を集めています。SNAP-tagを用いた手法がその一つであり、ベンジルグアニン誘導体といった特定のリガンドを繋いだ合成色素を用いることで、SNAP-tagを融合した目的のタンパク質に結合させることができます。SNAP-tagを利用した生体内タンパク質の動態の可視化は、がん研究など医学・生物学に多大な貢献をしています。この技術は、色素化合物の幅広い選択が可能で、特定のタイミングで標的タンパク質を標識することができるなど、多くの利点があります。しかしながら、植物科学分野では、SNAP-tagと合成色素を用いたタンパク質標識を利用したライブセルイメージング注3)は行われてきませんでした。この理由の一つとして、植物には細胞壁が存在するため、合成色素が目的のタンパク質まで届かないことがありました。

研究の内容

今回、研究チームは、SNAP-tagに結合する3種類の合成色素を細胞骨格の一つである微小管の標識に利用することで、植物においてもSNAP-tag技術を用いたライブセルイメージングが可能であることを明らかにしました。さらに、SNAP-tagとの結合時にのみ蛍光を発する細胞膜非透過性の合成色素DRBG-488を利用することで、細胞膜に局在するオーキシン輸送体のみが標識され、標識後の膜タンパク質が細胞内に取り込まれる過程(エンドサイトーシス)を可視化することに成功しました。今回の成果によって、細胞内で新たに合成された輸送体タンパク質とエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた輸送体タンパク質とを明確に区別することができました。同時に、タバコ培養細胞BY-2を用いて、31種類の色素の中から細胞の中へ入ることができるものとできないものを調べリスト化しました。興味深いことに、23種類の合成色素はBY-2細胞に取り込まれることがわかり、植物細胞においても多くの合成色素がSNAP-tagを用いた細胞質成分の標識に利用できる可能性があること、そして植物細胞膜透過性を持たない合成色素は膜タンパク質を細胞の外から標識するために利用できる可能性があることを明らかにしました。

【本研究の意義と今後の展開】

今回得られた知見は、植物細胞における、新たなタンパク質の蛍光標識技術を提供するものであり、植物細胞生物学研究を推し進める上で重要な発見であると言えます。今後、極めて高い光安定性をもつ合成色素を用いた超解像イメージングへの応用、特定の時間や特定の場所でのpHCa2+を測定する技術への応用が期待されます。

【参考図】

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図:SNAP-tagを融合したチューブリンタンパク質と蛍光基質との反応(左)と三種類の合成色素で標識したBY-2細胞の微小管(右)

【用語説明】

1) SNAP-tag

Human O6-alkylguanine-DNA alkyltransferase (hTAG)を遺伝子工学的手法により改良した約20kDaの酵素タグ。ベンジルグアニンやクロロベンジルピリミジン基を有する基質と共有結合する。SNAP-tagを用いることで、基質となる構造をもった蛍光色素を目的タンパク質に付加することができる。

2) エンドサイトーシス

細胞膜上のタンパク質や細胞外の物質が、細胞膜の陥入と小胞の形成によって細胞の中へ取り込まれる現象

3) ライブセルイメージング

蛍光プローブ等で標識したタンパク質や細胞小器官を生きた細胞で観察する手法

【論文情報】

掲載雑誌:The Plant Cell (米国の植物科学専門誌)

論文名:Covalent self-labeling of tagged proteins with chemical fluorescent dyes in BY-2 cells and Arabidopsis seedlings. (BY-2細胞およびシロイヌナズナ植物体タンパク質の共有結合による化学合成色素の選択的なラベル化)

著者:Ryu J. Iwatate, Akira Yoshinari, Noriyoshi Yagi, Marek Grzybowski, Hiroaki Ogasawara, Mako Kamiya, Toru Komatsu, Masayasu Taki, Shigehiro Yamaguchi, Wolf B. Frommer, Masayoshi Nakamura (岩立竜、吉成晃、八木慎宜、Marek Grzybowski、小笠原宏亮、神谷真子、 小松徹、多喜正泰、山口茂弘、Wolf B. Frommer、中村匡良)

論文公開日:202085

DOIhttps://doi.org/10.1105/tpc.20.00439

2020-08-07

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