名古屋大学 卓越大学院プログラム

トランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院プログラム

Graduate Program of Transformative Chem-Bio Research

活動報告

院生企画インタビュー「ラズパイでラボDIY」

近年、自動化技術を導入して研究の効率や精度を上げる取り組み、「ラボラトリーオートメーション」への注目が高まっています。一方で、高価な自動化装置の導入にはハードルもあり、研究者が自動化装置や補助具などを安価に自作し、研究の効率化を図ろうとする取り組みも広がっています。それが、今回の院生企画のタイトルとなっている「ラボDIY」です。最近では、「ラボDIY」の様々なアイデアや事例を、インターネットなどを通じて共有する動きも見られます。

今回の院生企画で取り上げたRaspberry Pi(通称:ラズパイ)は、イギリスで教育用に制作されたシングルボードコンピュータ。安価に入手でき、小型の基盤にセンサーやカメラなどの電子部品を組み合わせてプログラミングを行うことで、様々な機能を実装することができることから、研究現場でも、実験の自動監視や実験生物のモニタリングなど、研究活動の補助としてRaspberry Piを活用する例が広がりつつあります。
本院生企画では、ハンズオンと講演を通して、Raspberry Piのセットアップや操作を体験し、研究活動に活かすための基礎知識や具体例を学びました。

ハンズオンセミナー

  • 日時:3月14日(月)、3月17日(木) いずれも9:00-12:00
  • 開催方法:Zoomによるオンライン開催(各日程10名ずつ)
  • 提供:株式会社ツクレル
ハンズオンで使用したのはキーボード型の「Raspberry Pi 400」
Raspberry Piを使った画像検出の様子

セミナーの開催にあたり、Raspberry Pi のキットをGTRで購入して参加者に貸し出し。参加者は、実際に自分で手を動かしながら、講師の説明に合わせて初期設定から順を追ってRaspberry Piを体験しました。
ハンズオンセミナーに参加したGTR生の多くは、この院生企画をきっかけに初めてRaspberry Piを知った、あるいは、知っていたけれど初めて触るという初心者。上手くいかない箇所はZoomのチャットで講師に質問をしながら、一つひとつ工程を進めていました。
ハンズオンの後半では、センサーやカメラを使って、温度などの環境のセンシングをしたり画像認識をしたりする機能の実装も体験。初期設定から応用まで、Raspberry Piの使い方の全体像を掴むことができました。

講演

  • 日時:3月23日(水)13:00-14:30
  • 開催方法:Zoomによるオンライン開催
  • 講師:野口大貴 博士(理化学研究所)

野口博士は、企業や理化学研究所で人工タンパク質の設計に従事され、タンパク質の結晶構造を観察するプロセスを効率化するための装置を自作されるなど、実験デバイスの自作に精力的に取り組まれている研究者です。
講演では、Raspberry Piを購入する時の選び方から、研究用途での活用事例まで、幅広くお話しいただきました。
例えばRaspberry Piにはいくつかの種類があり、実現したい用途に応じてカメラやセンサーなど様々なものを組み合わせることができるため、はじめて購入する場合、何を選べばよいか迷ってしまいます。ご講演では、「どんな種類があるの?どう違うの?どのモデルを選べばいいの?どこで買えばいいの?実際にどうやって使うの?」といった疑問を解消してくれる、具体的な情報を多数ご紹介いただきました。これまでRaspberry Piを全く知らなかった人でも、何から取り組めばよいのかを具体的にイメージできる、「ファーストステップ」の後押しとなるご講演でした。

院生企画インタビュー

Key topics
なぜRaspberry Pi?
院生企画として実施して良かったこと
企画メンバーのNext step

なぜRaspberry Pi?

企画メンバーに、今回の企画を提案した経緯や企画者として運営に参加しようと思ったきっかけについて聞きました。

杉山:以前から、研究活動の中の単純作業などを効率化して、研究者のラボ生活をもっと便利にできたらよいなと考えていました。例えば最初にイメージしていたのは、8連ピペットで液が等しく吸えているかどうかをカメラで監視しておいて失敗したらエラー音を出す、といったようなものです。
そういった効率化を実践するにあたって必要になる電子工作系の知識や技術に触れる機会は、これまでほとんどなかったので、今回の院生企画を企画しました。

川瀬:2021年の10月に、杉山くんがGTR生のSlackに「Raspberry Piを使えるようになる講座を企画したいのですが、興味のある方いますか」という投稿をしてくれて、面白そう!と思いました。以前からラズパイに興味はあったのですが手を出せていなかったので、渡りに船という感じでした。

笹原:僕もラズパイの存在自体は知っていたけど、触ったことはありませんでした。杉山くんが紹介してくれたラボでの活用事例を見て、自分でも使えるようになったらいいなと思って、企画メンバーに入れてもらいました。

野場:杉山くんのSlackの投稿を見て、他の人も自分と同じようにラボ生活の中の単純作業を効率化したいと思っているんだなと思いました。GTR生の中で、普段の研究活動の中にある改善の種を共有するようなことができたら、それって面白いんじゃないかと思いました。

長江:興味はあったけれどやれず仕舞いだったという所は他のみなさんと同じ動機です。あと、運営側として参加すれば、みんなに楽しんでもらう企画をつくりつつ自分も強制的に参加することになるので(笑)それで企画者として参加しました。

杉山:最初に運営メンバーで基礎知識を得るために無料のオンライン講座を受けました。一度チームで集まる機会にもなって、講義の雰囲気も掴めたので、この機会は良かったと思います。
座学だけで身につけるのは難しいと思ったので、ハンズオンを提供している企業をリサーチして、最終的には最初にオンライン講座を受けた企業にお願いすることにしました。 研究への活用について知ることができる講演とセットにできたらと思っていたので、お呼びする研究者のリサーチも進めていきました。依頼先が決まった後は、講義として実施するための打ち合わせなどをして、そのあとは宣伝に回りました。

川瀬:今回の企画は、杉山くんがいなかったらできなかったと思います。リサーチ力や行動力がすごいなと思いました。

杉山:僕はラボラトリーオートメーション研究会という研究会に所属していて、伝手があったので。研究会の過去の発表者を調べたり、そこの知り合いの人に聞いたりして情報を集めました。

院生企画として実施して良かったこと

Q.インターネット上にも色々な情報がありますが、院生企画として実施したことのポイントはどんなところがありますか?

笹原:確かにネットで検索すれば情報は色々出てきますが、僕みたいな全くの初心者は何からやっていいか分からないので、今回のようにみんなで一つのものに取り組める機会があると、ハードルが下がると思います。

川瀬:個人でやろうとすると失敗する不安もあって躊躇しますが、初期投資をほぼゼロでラズパイを体験できたのは大きかったです。

笹原:杉山くんがラボラトリーオートメーション研究会のことを紹介してくれて、僕すごく興味がわいて。LADECっていう年会を聞きに行ったり、月に1回の勉強会にも時々参加したりしています。今回の院生企画がきっかけで、自分の興味やつながりも広がりました。

野場:今回の院生企画は、杉山くんがもともと持っていた知見や外のコミュニティのつながりを、GTRに共有してくれた。GTRの良さがうまく機能したいい例なんじゃないかと思います。

長江:誰かが持っている知見やネットワークが、GTR生同士のつながりを介して広がっていく仕組みってすごくいいよね。

企画実施のその後

Q.院生企画の講義やハンズオンを受けたあと、実際に何かつくってみましたか?

野場:講義を受けたあとにラズパイを買って、廃液管理のためのちょっとした仕組みをつくってみました。廃液の管理は、月1で確認しないといけないのですが、忘れると後が面倒なので、ラズパイが勝手に写真を撮って、写真を研究室のSlackにあげてくれるようなものをつくってみました。
そんな風に自分が色々試作してみた知見を、GTRや外のコミュニティで共有して、そこからまた新しい「共有の連鎖」が起きていったら、そこにはエンジニア的な良さが凝縮されているんじゃないかと、最近思い始めました。

杉山:もともとやりたかったことは、実験の補助具を自分でつくるということでした。お呼びした講師の先生が、ラズベリーパイだけじゃなく3Dプリンターなどを使って自分の好きなパーツをつくることも必要だよとおっしゃっていたのですが、図書館に3Dプリンターを使えるブースがあるので、最近は、3Dプリンターで実験の補助具みたいなものを試作しています。
実はちょうど今、図書館にいまして、横でチップ詰め補助装置を印刷してるところなんです。


杉山さんが図書館の3Dプリンターで制作していたチップ詰め補助装置。(写真提供:杉山さん)
動画バージョンはこちら。オリジナルの発案者のページはこちら

杉山:図書館の3Dプリンターは、今は無料で使えます。図書館としてもどんどん利用して欲しいそうなので、次の院生企画として図書館とコラボレーションした3Dプリンターの企画もありかもしれないですね。

野場:ラズパイをやったから次は3Dプリンター、いいですね。できればこのメンバーでまたやりたい。

企画メンバーのNext step

Q.今回の企画に関連して今後やってみたいことや、この先、個人としてやりたいことなどを教えてください。

杉山:今回の企画で、GTRとしてRaspberry Piを10個ほど準備していただいたので、この貸出制度を活用してもらえるような、「やってみようかな」と思う人が増えるような働きかけができたらいいなと思っています。

笹原:講義を受けてみて、自分でもラズパイを買って色々試したいなと思いました。発表の場もいろいろあるので、つくったら、それを発信して他の人と共有する所までやらないとな、と思います。論文にして発表している人もいるので、上手くいったらそういうこともできたらいいですね。

杉山:もしご興味があれば、実験自動化研究会の方でも発表してください。

笹原:頑張ります。

野場:まずは自分がつくったものを発信して、他の人にも「やってみようかな」という動きが広がっていったらいいなと思います。つくったものやアイデアをどんどん共有できるコミュニティが、GTRの中でもできたらいいですね。

川瀬:ラズパイに関しては、自分の研究に関係する所でいくと、マウスの監視の仕組みをつくれたらいいなと思っています。
あと、外部コミュニティとの関わりという点ですが、私が所属する遺伝学会で若手の会を作ろうとしています。僕がGTRにいる間に、その若手の会にGTR生を何人か引きずり込みたいなと思っています。

野場:若手の会や外部の勉強会のような外のコミュニティにも、GTR生がどんどん乗り込んでいくような動きができてくると、波及効果が広がりそう。GTR生個人も新しい知見やネットワークができて、それがまたGTRのつながりを介して他のGTR生にも広がってという循環ができたらすごくいいなと思いました。

長江:僕はGTR生として活動できるのはもうあと数か月ですが、「やりたい」って声をあげたらすぐに誰かから反応があって、集まって一緒に企画を形にできる、今のこの環境ってすごく貴重だなって改めて気付いたというか、本当に良い環境に自分はいるんだなと思いました。

川瀬:所属研究科や研究室が違うと交流がないことが多いと思うのですが、僕らはGTRを「お題目」に、簡単によそのラボを訪れられる環境にいるんですよね。GTRに所属して、自分の視野がすごく広がったと感じています。GTRという「後ろ盾」がある環境だからこそ、研究室の壁を超えて人が集まって一緒にやりたいことを形にできるし、そういうことに突っ走っていける。

長江:これまでGTRに参加してきて、GTRで色々学べてすごく楽しかったし、この経験は自分にとって確実に次に生きていると思うので、残りの期間で、そういう面白さを下の世代に実感してもらえるような行動をできたらいいなと思います。
7月からは東京大学のポスドクになるのですが、向こうでも同じアクションを頑張ってやりたい。同世代の繋がりや異分野間のつながり、研究業界全体を盛り上げるような取り組みを、GTRを出てからも続けていければいいなと思っています。

(Q.具体的に、GTRでどんなところが成長できたと思いますか?)

長江:本当にいろいろあります。知識面での広がりもそうですし、こういった企画を自分たち自身でやるからこそ、そこに主体性も追いついてくる気がします。何かを身につけるには、一歩踏み出さないと身に付かないと思うので。「知識に対する主体性」は、GTRのおかげで身についたと思います。

杉山:長江さんの「主体性」というお話は、僕もすごくわかるなと思いました。今回、院生企画を代表としてやるのは初めてで、結構ドキドキしながら始めていたんですが、最終的にうまくいったかなと自分の中で思えた時には、やって良かったと思いました。
一歩踏み出してみることで、それによって主体性がついてきて、そこでの経験がまた次への自信につながっていくのかなと思います。

(2022年4月オンラインでインタビュー)

企画者:
杉山亜矢斗(創薬科学研究科・D1)
野場考策(工学研究科・D2)
長江拓也(理学研究科・D3)
笹原純(工学研究科・D1)
川瀬雅貴(生命農学研究科・D2)
*学年・所属は企画実施時のもの