名古屋大学 卓越大学院プログラム

トランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院プログラム

Graduate Program of Transformative Chem-Bio Research

活動報告

院生企画インタビュー「フィールドワーク」

フィールドに出て、生き物を観察しよう!

2023年9月28日(木)、名古屋市港区の藤前干潟で院生企画のフィールドワークを行いました。
藤前干潟は名古屋港に広がる干潟で、渡り鳥の飛来地として有名です。干潟では潮の満ち引きによって多様な環境が作られ、鳥類の餌となる底生動物をはじめ、多くの生き物が生息しています。

GTRには、化学系・生物系もしくはそれらの融合領域を専門とする学生が所属していますが、フィールドワークの経験がある学生はほとんどいません。また、実験で扱う生物のほとんどは管理された環境下で育てられたモデル生物であり、生物系の学生であっても、自然環境下の生き物に触れる機会は多くはありません。
今回の企画は、生物を取り巻く環境や社会といった、マクロな観点で生物を捉える視点を養うことを目的として企画されました。

企画概要
  • 日時:2023年9月28日(木) 9:00~16:30
  • 場所:藤前干潟(名古屋市港区)
  • ポスター

院生企画インタビュー

Key topics
GTR生にフィールドワークを体験してほしい
フィールドで感じたことやそれぞれの視点
全員が同学年の企画チーム
経験したことが今後に生きる

GTR生にフィールドワークを体験してほしい

Q.今回の院生企画を企画したきっかけや経緯を教えてください。

加藤: "院生企画を企画しよう"というGTRのイベントがあり、そこでフィールドワークの企画がやりたいと話したことがきっかけです。僕は生物発光を研究していて、海や山にフィールドワークに行くのですが、GTR生では他にフィールドワークをやっている人が全然いなかったので、「布教」というか、マクロな視点で生物を見る面白さを他の人にも知ってもらいたいと思って提案しました。

野溝: 子どものころは虫捕りをしたり野外の生き物と触れ合っていたので、加藤くんの話を聞いて面白そうだなと思いました。フィールドワークを自分の研究と結び付けられるかは正直分からないのですが、興味だけで参加しました。

八神: これまでフィールドワークの経験はないのですが、自分の研究の引き出しを増やせるんじゃないかなと思って参加しました。
フィールドワークの当日は別の用事と重なって現地に行けなかったので、第2回の開催に期待したいです。

石川: 私は以前分類学研究に関わっていたこともあり、フィールドワークの重要性は認識していて、あと、出身の学部が農学部なので、学部生の時にはフィールドワークに行ったこともあります。他の学部ではフィールドワークを経験する機会がないと聞いて、やったことがない人にもぜひ経験してもらえたらと思いましたし、自分もフィールドワークに行きたいと思ったので、今回の企画に参加しました。

廣岡: 自分の研究にフィールドワークを取り入れることはおそらくないと思いつつ、何か新しいことをやってみたいという好奇心だけで参加しました。実際にフィールドに行ってみて、すごく楽しかったです。やったことがないことをできる機会っていいなと思いました。

加藤: 野溝さんや廣岡さんのように、実際に自分の研究につながるわけじゃなかったとしても、外に出て自然の中で生き物に触れることで、生き物と生き物のつながりや、生態系の中での生き物という視点を、少しでも持ってもらえたなら嬉しいです。もしかすると今後、何かの時にそれがブレイクスルーになることもあるかもしれないので、そんな経験をいろんな人にしてもらえて良かったです。

フィールドで感じたことやそれぞれの視点

Q.どんなフィールドワークを企画されたのですか?

加藤: 今回は藤前干潟に行きました。生態学がご専門の三重大学の先生に講義をしていただいたあと、実際に干潟に出て生物を観察しました。

野溝: 事前アンケートの結果も踏まえて、名古屋市内にあって地下鉄で行ける藤前干潟を選びました。

加藤: 干潟では、みんな積極的に質問していて、目が生き生きしていたというか・・・

廣岡: 自由に生き物を捕まえて、みんなワイワイ楽しんでくれていました。

加藤: ゴカイを見つけて「このゴカイはどの種類?」ってガイドブック開いて調べたり、「この生き物は何だ」みたいな議論があちこちで起きたりしていて、そんな様子が嬉しかったです。

野溝: レンジャーさんから、干潟に漂着しているごみや環境保護についてのお話を聞いたりもしました。最近では、ペットボトルのような大きなごみよりもいわゆるマイクロプラスチックが問題になっているといった話や、不法投棄されたごみが流れ着いている様子なども実際に観察しました。

石川: GTRの学生企画で、学外に出て何かするという企画はこれまでになかったので、前例を作れて良かったと思います。「外部の研究室を見学に行こう」とか「企業の工場に行ってみよう」みたいな、外に目を向けた企画が他にも出てくるきっかけになったら嬉しいです。
今回の企画では、生物系以外の学生やドクターの方の参加率も高かったです。工学研究科や創薬科学研究科、多元数理科学研究科の方も参加してくださって、そうした、普段の研究で生物に触れない方々にも参加していただけたのは大きな成果だったと思います。専門知識がなくてもとっつきやすい内容だったことや、リフレッシュになる面もあったので、気軽に「参加してみよう」と思っていただけたんじゃないかと思います。

野溝: 私は干潟についての事前知識はほとんどない状態で参加したのですが、当日、三重大学の先生の講義を聞いたり職員さんの話を聞いたりして干潟に入って、その時に感じたことの中から疑問を掘り起こしたり、自分なりの興味や関心を拾い上げたりする経験は、普段の実験室ではあまりやらないことなんじゃないかと思いました。研究室では、テーマも決まっていて、材料や手順もある程度決まっています。そういうものがない中で、先入観のない状態で「飛び込んでみて自分で考える」という経験ができたことはすごく良かったと思います。
例えば私は植物を研究しているので、どんな藻類がいるかなとワクワクしていたのですが、緑色のやつが全然いなくて(笑)たくさん生き物がいるのに、「生産者」に当たる生き物があまり見あたらなくて、「バランス」はどうなっているのだろうと考えを巡らせたりするのが面白かったです。 あと、感覚的なことで言えば、泥を踏むときの感触だったりとか、干潟の水が意外としょっぱくなかったり、というのも新鮮でした。

全員が同学年の企画チーム

Q.企画の運営について教えてください。

廣岡: 気軽に意見を言い合える同学年の仲間と一緒に何かを作るというのが新鮮で楽しかったです。企画を運営する経験を通してすごく勉強になりました。

八神: みんなで試行錯誤しながら一つの企画を作る経験ができたことがすごく良かったなと思いました。企画者としての一連の流れを学べたので、他の企画をやる際にはこの経験を活かして進められると思います。

加藤: これまで、「こんな企画をやってみたい」というアイデアは頭の中にあっても、実際に実行につなげることに苦手意識がありました。今まで「やってみたいな」で止まっていたのが、今回、他の人達に協力してもらって、こうやって形にできたことが嬉しかったです。「こんなことやってみたい」とアイデアを出したら、「やってみようよ」って色々な人が協力してくれて、アイデアが形になっていくのを経験できたことはすごく良かったです。次は自分が、他の人のやってみたいアイデアを実現する手助けができればいいなと思っています。

野溝: 運営はすごくスムーズでした。あまりにもサクサク進んでびっくりしたくらい(笑)メンバーみんなが、周りのことを考えて動けるタイプだったからだと思います。

八神: 誰か一人がリーダーシップを発揮して全体を動かすというより、全員が主体的に動いた結果、スムーズに進行できたのかなと思います。

加藤: みんながそれぞれに動くと情報が小出しに出てくるんですが、野溝さんがそういった情報を逐一まとめて共有してくれたのでとても助かりました。

廣岡: ミーティングで集まった時は、毎回、無駄のないミーティングができていたと思います。事前に議題を共有してミーティングに臨んで、その時間で決めるべきことをきっちり決めて前に進める、というのができていたのが良かったなと思います。

八神: ミーティング以外のオンラインでのコミュニケーションでは、「見てるよ」というサインが返ってくると、投げかけた方も安心できますし、リアクションボタンでもスタンプでもいいから何か反応するというのは大事だなと感じました。

石川: この日までにと決めたことはみんなきっちり守って仕上げてくれていましたし、個々で動いていても、コンセンサスを取るべきところはちゃんと立ち止まって、メンバーみんなで考える、ということができていたと思います。

野溝: それぞれが自分の役割を見つけてどんどんやってくれた所がありがたかったです。個々の裁量でそれぞれに動いていても、ばらばらにならずに同じ方向を向いて進むことができたのは、加藤くんがずっと方向を示し続けてくれたことが支えになったと思います。フィールドワークを経験したことがないメンバーが多かったので、加藤くんが、フィールドワークをやる上で必要なことを指摘してくれたり、フィールドワークの良さをみんなに伝え続けてくれたりしたことが、みんなのモチベーションを保ってくれたと思っていて、本当にありがたかったです。

経験したことが今後に生きる

Q.全体を振り返って、最後に一言ずつお願いします。

野溝: 今回、みんな楽しそうに参加してくれていましたし、良い企画ができたという手ごたえがありました。第2回として、山や森林にもフィールドワークに行ってみたいなと思います。フィールドワークは専門性にとらわれず誰でもできるので、自分が疑問に思ったことを調査することを趣味のようにしても楽しいだろうなと思いました。

加藤: 僕も、次の企画をまたやりたいなと思っています。今回は日帰りだったので、次は一日~二日のもう少し大がかりな企画ができたらいいなと思います。

廣岡: 干潟に出て生き物を観察することが、日ごろの研究環境を離れてリフレッシュにもなりました。そんな企画も、たまにはいいのかなと思いました。
今回、企画者として運営に関わった経験を活かして、次は自分がもっと引っ張れる立場になって、後輩とも企画をできたらいいなと思います。

八神: 廣岡さんのコメントに近いのですが、今回、企画を立ち上げる所から実施まで、運営の全体を経験できたので、次は引っ張る立場で、この経験を活かしたいと思っています。 今回、当日は参加できなかったですが、運営を通してフィールドワークのことを知れて、視野が広がりました。干潟に調査に行くというような形でなくとも、例えば「ちょっと自然に生えているものを取ってきてみよう」といった選択肢を自分の中に得られたと思います。
次回はぜひ、当日も参加したいです。

石川: 実験室の生き物を見ているだけだと、個体間や環境とのインタラクションみたいなものはあまり見えてきませんが、本来、生物はそうしたインタラクションによって進化してきて、その結果、色々な機能を持っています。なので、フィールドに出て自然の中の生き物を見ることは、生物の進化に思いを馳せる機会として重要だと思います。今回の企画が、生物を研究している人だけでなく、化学の人にも、そういった生物の進化に思いを馳せる機会になっていたら幸いだなと思います。

(2023年10月オンラインにてインタビュー)

企画者
  • 加藤巧己(理学研究科(生命) 博士前期課程2年)
  • 廣岡依里(理学研究科(生命) 博士前期課程2年)
  • 石川峻遥(生命農学研究科 博士前期課程2年)
  • 八神祐一郎(理学研究科(生命) 博士前期課程2年)
  • 野溝はるな(理学研究科(生命)博士前期課程2年)
*所属・学年は、開催当時のもの。