名古屋大学 卓越大学院プログラム

トランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院プログラム

Graduate Program of Transformative Chem-Bio Research

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GTRセミナー / 最先端植物科学シリーズセミナー

この度、植物科学のさまざまな分野で活躍されている5名の若手研究者の方々をお招きして、最新の研究成果や今後の展開の方向性を議論する「最先端植物科学シリーズセミナー」を企画しました。7月下旬から9月中旬にかけ、対面で行う予定です。新進気鋭の研究者と直接議論できる絶好の機会ですので、大学院生、研究員、教職員の皆さま、ぜひご来聴ください。


講演者 :晝間 敬 博士(東京大学 大学院総合文化研究科・准教授)
日 時 :2022年7月28日(木) 16:30〜18:00
場 所 :農学部 第8講義室(農学部講義棟1階)
講演タイトル:「植物微生物超個体を構成する微生物の感染戦略を知り制御する」
講演言語:日本語
講演要旨:
植物の周囲には、植物成長を助ける共生菌やそれを阻害する病原菌など多彩な微生物が存在しており、それがあたかも単一個体のような振る舞いをすることが知られている(植物微生物超個体)。その中には、環境条件や宿主の遺伝背景に依存する形で、感染戦略を共生型から病原型と連続的かつ可塑的に変化させる微生物も存在する。このことから、これらの微生物の感染戦略やその連続性を支えるメカニズムを理解することは、超個体の中で微生物の潜在的な病原性の発現を抑えつつ共生効果を最適化させ、制御していく上で必要と考えている。
 私は先述の試みの第一歩として、これまで炭疽病菌として知られていたColletotrichum属糸状菌の中に、リンが欠乏した環境においてアブラナ科植物にリンを供給することで植物成長を促す共生菌Colletotrichum
tofieldiaeが存在することを発見した。一方で、C.
tofieldiaeの菌株の中に、環境や宿主の遺伝背景に応じて病原型から共生型へとその感染戦略を変化させる株が存在することを見出した。続いて、その菌株の共生型から病原型への連続的な感染戦略の移行には、単一の糸状菌二次代謝物クラスター遺伝子の活性化が鍵であることがわかった。さらに、この二次代謝物クラスターの活性化に伴い、植物ホルモンであるアブシジン酸経路が植物の根で活性化されること、ひいては宿主植物の栄養状態が撹乱され、植物成長が阻害されることが明らかとなった。以上から、糸状菌の二次代謝物クラスターは環境の変動に応じて、植物感染糸状菌が共生から病原と連続的な感染戦略を示すための根幹となっていることが考えられた。
本発表では、以上で得られた知見に加え、共生型のC.
tofieldiaeがリンだけでなく他の栄養が枯渇した環境下で示す共生効果やそのメカニズムについても共有したい。

世話人:榊原 均(sakaki<at>agr.nagoya-u.ac.jp(<at>→@に変換)

今回のセミナーも含めた「最先端植物科学シリーズセミナー」の全体ポスターはこちらから