名古屋大学 卓越大学院プログラム

トランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院プログラム

Graduate Program of Transformative Chem-Bio Research

EVENTS

GTRセミナー

5月12日(金)15時より、下記の通りGTRセミナーを開催いたします。
皆さまお誘いあわせの上、ぜひご参加くださいますようお願い申し上げます。

講演タイトル:ショウジョウバエを用いた遺伝子量補償の即時性と柔軟性の検証
講演者 :東京都立大学 理学研究科生命科学専攻
     准教授 野澤 昌文
開催日時:5月12日(金)理学部E館E131(会場が変更になりました)
     15:00〜16:30
講演言語:日本語
問合せ先:生殖生物学グループ 田中 実 (内2979)

概要
性染色体も元々は一対の常染色体に由来する.したがって,誕生直後のXY染色体は相同遺伝子を多く保持するが,進化過程でY染色体は多くの遺伝子を消失する.すると性染色体上の多くの遺伝子はメスで2コピー,オスで1コピーとなる.この不均衡を解消するメカニズムが遺伝子量補償であり,ショウジョウバエではオスのX染色体上の遺伝子発現が2倍になることが知られている.Y染色体の遺伝子消失とX染色体の遺伝子量補償の関係を調べるために,多くの機能遺伝子を持つミランダショウジョウバエ(Drosophila
miranda)のネオY染色体(常染色体が性染色体と融合して生じた新しい性染色体)
上の遺伝子を重イオンビームで破壊し,ネオX染色体上の相同遺伝子の発現量が即座に上昇するかを検証した.その結果,ネオY染色体上のシングルコピー遺伝子には欠失が有意に入りにくいことが分かった.この結果は,ネオX染色体上の遺伝子に即時遺伝子量補償は作用せず,ネオY染色体のシングルコピー遺伝子を消失した個体に有害であった可能性を示唆する.
ところで,性(X)染色体は進化過程で常染色体に戻ることもある.するとオスもこの旧X染色体を2
本持つ.このとき遺伝子量補償が作用したままだとオスで遺伝子の過剰発現が起こる恐れがあるため,
X染色体が常染色体に再転換するには旧X染色体における遺伝子量補償の消失(発現量低下)が必要である可能性がある.そこで,ネオX染色体を持つD.
mirandaと近縁種でネオX染色体に相同な常染色体を持つウスグロショウジョウバエ(D.
pseudoobscura)の雑種を作出し,ネオY染色体を近縁種の常染色体で置き換えることでネオX染色体を2本持つオスを模倣した.その結果,雑種不和合による異常な遺伝子発現が観察されたが,遺伝子クラスタリングによって不和合の影響が小さい遺伝子群のみを抽出したところ,ネオX染色体の遺伝子発現量は有意に低下していた.この結果は,D.
mirandaのネオ性染色体が潜在的に常染色体に再転換できる柔軟性を保持していることを示唆する.
現在,多様なショウジョウバエが持つ多様な性染色体を用いて,性染色体の一生を分子から集団レベルまでの多階層的アプローチで明らかにしようと試みているので,時間があれば合わせて紹介したい.