GTRセミナー / アドバンス生命理学特論
下記のようにGTRセミナーを開催しますので、ぜひご来聴ください。
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日時:10月6日(月)10:30−12:00
場所:理学部G館 G101
講演者:新潟大学 脳研究所 特任教授 吉田恒太
講演タイトル:非モデル線虫で拓く進化ゲノム生物学の最前線
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線虫といえば、2024年ノーベル生理学賞でも脚光を浴びたC. elegansを思い浮かべる人が多いだろう。しかし線虫は動物界最大級のグループで、あらゆる環境に適応し、地球上には約 100万種が存在するといわれる。その多様性のメカニズムをC. elegansと同等の実験的手法で解明できれば、生物多様性研究に革新をもたらすことができるだだろう。吉田はこのような野心のもと、2016年に線虫研究に入り、Pristionchus属線虫を多様性研究のモデルとして確立した。Pristionchus属線虫は飼育や生体の凍結が容易で、世代時間も短く、多様な遺伝子操作が可能であり、多くの実験的利便性がもつ。昆虫との生態的関連が着目され、世界各地の昆虫採集から過去20年で50以上の新種が発見され、培養可能な47種は凍結保存され実験利用できる。吉田は全培養可能種の染色体を解析し、長鎖シークエンサーを用いて一部の種の染色体レベルのゲノムアッセンブリを完成、この属においてゲノムの大規模再編成が頻繁に起こっていることを明らかにした。本発表では二つの派生プロジェクトを紹介する。
一つは、種分化研究である。モデル種であるPristionchus pacificusとその近縁種の間では、同じ染色体を介して、染色体の融合がそれぞれの系統で独立に進化した。雑種不稔の原因遺伝子座の遺伝的解析により、種分化の原因因子がこの融合染色体に蓄積していることが示された。そのメカニズムの一つとして、染色体融合により染色体全体の組み換え率が変化し、さらに雑種特異的に組み換え率が撹乱されることで不稔になるということが判明した。これにより、染色体融合が種分化に与える影響とそのメカニズムを明らかにした。
もう一つは性決定の多様化である。Pristionchus属線虫の多くはXX/XO型の遺伝的な性決定様式をもつが、一部の種ではX染色体と常染色体の融合により、XX/XY型に進化している。しかし、そのXX/XY型から派生して、Pristionchus mayeriなどの種では「確率的性決定」という新しい性決定システムを獲得していることが明らかになった。この確率性はtra-1という主要なスイッチ遺伝子の上流で起こっていることもわかった。現在、分子レベルでの性決定進化のメカニズム解明が進んでいる。
参考文献
Yoshida K., Witte H., Hatashima R., Sun S., Kikuchi T., Röseler W., Sommer R. J., "Rapid chromosome evolution and acquisition of thermosensitive stochastic sex determination in nematode androdioecious hermaphrodites", Nature Communications, 15, 9649, 2024
Yoshida K., Rödelsperger C., Röseler W., Riebesell M., Sun S., Kikuchi T., Sommer R. J., "Chromosome fusions repatterned recombination rate and facilitated reproductive isolation during Pristionchus nematode speciation", Nature Ecology & Evolution, 7, 424-439, 2023
問い合わせ先:
理学研究科 生殖生物学グループ 田中 実(内線2979) ✉ tanaka.minoru.r3<at>f.mail.nagoya-u.ac.jp(<at>→@に変換)