研究ハイライト

たった1ステップで多環式分子を構築 ~70年の難題を打破する「合成ショートカット」を開発~

早稲田大学理工学術院の山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう)教授の研究グループと名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の武藤慶(むとうけい)特任准教授は、パラジウム触媒を用いて3種類の簡単な原料から、化学的に複雑な多環式構造を一挙に構築する新手法を開発しました。

鍵となるのは、70年前に報告されて以来、合成が困難だった「o-キノジメタン」という高反応性中間体を、反応の途中でその場で生成・即座に利用する新技術です。本手法により、従来法と比べて工程数と時間を大幅に削減できることが確認されました。

本研究成果は、Cell Press 社『Chem』のオンライン版に2025年6月2日(月)11:00(アメリカ東部夏時間)に掲載されます。


【ポイント】

  • 天然物や医薬品に含まれる「多環式構造※1」を、わずか1回の反応で合成することに成功しました。
  • 3種類の簡単な原料を組み合わせた「ワンポット合成※2」「多成分反応※3」によって、複雑な構造を効率的に構築できます。
  • 多環式構造の合成反応における不安定な中間体の「o-キノジメタン※4」を、その場で発生・活用する新手法を開発しました。
  • 合成化学や創薬、機能性材料など幅広い分野への応用が期待されます。

  • ◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


    【用語説明】

    ※1 多環式構造:複数の環状構造が結合した分子構造のこと。多くの天然物や医薬品に含まれる基本骨格であり、合成が難しいことで知られる。

    ※2 ワンポット合成:複数の反応工程をひとつの容器で連続的に行う手法。工程短縮や廃棄物削減につながる。

    ※3 多成分反応:一般的に3つ以上の分子を反応させて1つの分子を合成する反応のこと。複数の分子がつながる位置の制御が必要なため、一般的に難しいことで知られる。

    ※4 o-キノジメタンortho-quinodimethane, oQDM):非常に反応性が高い中間体で、多環式構造を作る上で重要な構成要素。安定性が低く、通常はその場で生成してすぐに使う。