研究ハイライト

機能性有機化合物を迅速合成する手法を確立 〜メカノケミカル法を用いた前例のないアルキン二量化反応〜

【本研究のポイント】

・キラルラダーπ骨格をもつジヒドロジナフトペンタレンの合成に成功。

・空気下、室温で、迅速に反応させる「メカノケミカル反応」 1により、溶液中反応では達成できなかったアルキン 2の二量化反応を実現。

・ジヒドロジナフトペンタレンのキラル光学特性などを解明。

【研究概要】

名古屋大学大学院理学研究科の伊藤 英人 准教授、堀 航也 博士前期課程学生、遠山 祥史 博士後期課程学生らは、メカノケミカル法による新しいアルキン 2の二量化反応を開発し、新奇キラルラダーπ骨格をもつジヒドロジナフトペンタレンの一段階の合成に成功しました

二つのシクロペンタジエン注 3)と二つのベンゼン環注 4)が縮環したジベンゾ[a,e]ペンタレンの還元体であるジヒドロジベンゾペンタレン類は機能性π共役化合物の一つであり、高い電子移動速度をもつ電子ワイヤーなどへの応用など期待されています。しかし、その合成には多段階の変換工程が必要であり、合成法に限りがありました。

本研究では、原料としてナフタレン骨格をもつジアリールアセチレン 2、反応剤として金属リチウムを用い、ボールミルと呼ばれる粉砕機によって反応させることでジヒドロジナフトペンタレンが速やかに得られることが分かりました。メカノケミカルアルキン二量化反応とも呼べる本反応は、有機溶媒をほとんど用いずに室温、空気化で進行するため、有機合成上の利点を有しています。一方、これまでに合成されてこなかった新奇ジヒドロジナフトペンタレン類の合成が可能となったことで、その新奇キラルラダーπ骨格としての構造、光物性、およびキラル光学特性などを評価することができました。

本反応は、メカノケミカル反応でこそ実現できたアルキンの二量化反応であり、魅力的なπ共役化合物を新規に合成することができました。今後これらの知見を用いた機能性π共役化合物の合成や新しい固体有機反応化学の展開が期待されます。

本研究成果は、英国王立化学会誌「RSC Mechanochemistry」のオンライン速報版で2026年2月5 日に掲載されました


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【用語説明】

注1)メカノケミカル反応:

一般に有機合成では、反応剤同士を有機溶媒中に溶かして混合する必要があり、1グラムの反応試薬に対して100mL〜1L程度の溶媒が必要となる。研究室レベルの実験では比較的簡単に実施できるが、工業化の際のスケールアップが難しいといった問題点がある。これに対して、近年、固体反応剤同士を機械的に直接混和して反応させるメカノケミカル反応が注目を浴びている。ボールミルなどの粉砕機を用いた反応では、反応剤と攪拌用ボールを反応容器に加えて容器自身を直接機械的に振動させて内容物を混合することで反応を行う。有機溶媒をほとんど用いないこと、反応が短時間で完結すること、大量合成が容易であるなどのコスト・効率面での実用的な利点だけでなく、有機溶媒中では起こらない化学反応や現象が見られるなど、近年注目を浴びている。

注2)アルキンとジアリールアセチレン:

隣接する2つの炭素原子同士が三重結合で結合された化合物をアルキンという。特に、芳香族化合物同士を三重結合で結合した化合物はジアリールアセチレンと呼ばれる。

注3)シクロペンタジエン:

炭素原子5個と水素原子6個からなる五角形の分子構造。不安定な分子。

注4)ベンゼン環:

炭素原子 6 個と水素原子6個からなる正六角形の分子構造。一般的にこの分子の環構造単位はベンゼン環と呼ばれる。安定な分子。