研究ハイライト

植物が過酸化水素シグナルを感知する仕組みを解明 ~銅イオンに依存した新たな酸化還元状態の感知機構~

【ポイント】

・植物における過酸化水素シグナルの感知に必須な細胞膜受容体CARD1の細胞外領域の立体構造を、クライオ電子顕微鏡1を用いて決定した。

CARD1は、ロイシンリッチリピートドメイン上の高度に保存された3つのヒスチジン残基注2を利用して銅イオンを保持していた。

CARD1が保持する銅イオンが、過酸化水素の感知に必須であることを明らかにした。

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)のAnuphon Laohavisit(ラオハビシット アヌポン) 特任准教授、藤本 和宏 准教授、柳井 毅 教授、東海国立大学機構イノベーションコアファシリティセンターの伊藤 広樹 技師、西村 真弓 技師、理化学研究所 環境資源科学研究センターの石濱 伸明 研究員、白須 賢 副センター長、大阪大学 大学院薬学研究科の福田 庸太 助教、井上 豪 教授らの共同研究グループは、植物が重要なシグナル分子である過酸化水素(H₂O₂)を感知する新たな仕組みを解明しました。

H₂O₂に代表される活性酸素種(ROS3は、植物を含む多様な生物において重要なシグナル分子として機能します。植物では、ロイシンリッチリピート(LRR)受容体様キナーゼ4をコードするCARD1(別名HPCA1)が、H₂O₂の感知に必須な遺伝子として同定されています。しかしながら、CARD1H₂O₂を感知する仕組みには多くの謎が残されていました。今回、共同研究グループは、構造生物学、遺伝学および生化学的手法を組み合わせてその解明に取り組み、CARD1細胞外領域のLRRドメイン上に結合した銅イオンが、H₂O₂の感知に必須であることを明らかにしました。本成果は、植物におけるROS認識機構の理解を大きく前進させるとともに、新たな作物保護技術の開発にも貢献することが期待されます。

本研究成果は、202651818時(日本時間)付で英国科学誌『Nature Communications』に掲載されます。

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【用語説明】

1)クライオ電子顕微鏡:

生体試料を凍結し、極低温下で電子線を照射して3次元構造を撮影、解析する電子顕微鏡。通常の電子顕微鏡と比較して、より生体内に近い構造を観察できる。

2)ヒスチジン残基:

タンパク質を構成するアミノ酸の一つであるヒスチジンが、タンパク質中に組み込まれた状態を指す。ヒスチジンは窒素原子を有するイミダゾール環をもち、金属イオンと結合(配位)しやすい性質を有する。CARD1においては、ヒスチジン残基のイミダゾール環の窒素原子が銅イオンに対して三角平面型で結合している。

3)活性酸素種:

活性酸素種(Reactive Oxygen SpeciesROS)とは、酸素から生じる反応性の高い分子の総称で、H2O2、スーパーオキシド(O2-)、ヒドロキシルラジカル(・OH)などが知られる。植物では、病原体の侵入や環境ストレスに応答して細胞外でROSが産生され、細胞応答を誘導する重要なシグナル分子として機能する。一方で、過剰なROSは生体分子を損傷し、細胞に障害を与えるため、その量は厳密に制御される。