研究ハイライト

細胞内の"油"が分子の並び方を制御する新原理を発見 ~脂肪滴が関与する疾患の理解と治療に向けて~

【本研究のポイント】

・中性脂質「トリオレイン」中で、発光性π共役分子1が繊維状の超分子ポリマー2を形成し、その構造を蛍光イメージングにより可視化した。

・トリオレイン(TO)が、従来の低極性有機溶媒とは異なり、分子の自発的な核形成や繊維同士の凝集を抑制し、超分子重合の精密制御に有用であることを見出した。

・この性質を利用し、異なる発光色の超分子ポリマーを段階的に伸長させることで、マルチブロックナノ構造の構築に成功した。


【研究概要】

名古屋大学大学院理学研究科・学際統合物質科学研究機構(IRCCS)の大城 宗一郎 准教授、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)・IRCCSの山口 茂弘 教授らの研究グループは、脂肪滴3の主要構成脂質であるトリアシルグリセロール(TAG)に着目し、その代表例であるトリオレイン(TO)中で、超分子ポリマーの形成過程を精密に制御できることを明らかにしました。

超分子ポリマーは、分子が水素結合やπ共役骨格間の非共有結合性相互作用を介して自発的に形成される分子集合体です。細胞内で超分子ポリマーを形成させ、細胞機能を制御する研究がこれまでなされてきましたが、脂肪滴のような中性脂質に富む環境で自己集合をどのように制御できるかは十分に理解されていませんでした。

今回、研究グループは、アミノ酸由来のジアミド部位を持つ発光性π共役分子を用いることで、TO中での自己集合挙動を明らかにしました。TOは、一般的な低極性有機溶媒と同程度の低極性にもかかわらず、自発的な核形成や超分子ポリマー同士の凝集を抑制することを見出しました。この効果により、種(シード)となる集合体を加えると、分子を望みの経路に沿って成長させるシード重合4が可能であり、緑色発光分子と青色発光分子を段階的に伸長させたマルチブロック超分子ポリマーの構築にも成功しました。

本成果は、中性脂質が超分子集合の経路を制御する機能性媒体として働くことを示すものであり、生体内脂質環境で機能する分子集合システムの設計や、細胞内脂肪滴の機能の制御を標的とした分子技術につながることが期待されます。

本研究成果は、2026年7月6日18時(日本時間)に米国化学会誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されます。

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【用語説明】

注1)発光性π共役分子:

二重結合や芳香環が連なったπ共役構造をもち、光を吸収して発光する分子。

注2)超分子ポリマー:

非共有結合性相互作用を介して分子が一次元方向に連なって形成される集合体。

注3)脂肪滴:

トリアシルグリセロール(TAG)やコレステロールエステルなどの中性脂肪がリン脂質の単分子膜で囲まれた構造体。

注4)シード重合:

種(シード)の添加により超分子ポリマー化を開始することができる手法。